司法書士試験

【相碁井目】生存者バイアスという残酷な真実

メジャーリーグで現在活躍中の大谷君が、ある日野球少年たちにこんなことを言ったとします。

「僕でもメジャーリーグで160kmのボールが投げられて140mのホームランが打てるんだから、君たちも努力すればきっとメジャーで活躍できるよ」

一見すると美談のようにも思えますが、考えようによってはとても残酷な話です。

大谷君に憧れている純粋な野球少年たちはその言葉を信じて必死に努力しますが、メジャーリーガーはおろかプロ野球選手になれるのも全国の野球少年の中ではほんの一握りです。

他の多くのものを犠牲にして練習した時間は戻ってきません。

実際の大谷君は不用意にこのような発言はしないでしょうが、これは生存者バイアスの極端な例ではないかと思います。

ウィキペディアによると、生存者バイアスとは「何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行い、通過に失敗した人・物・事が見えなくなることである」とあります。

野球などのスポーツ分野や音楽などの芸術分野においては本人の努力ではどうにもならない才能(体格を含む)が大きなウエイトを占めます。

これはビジネスや学問の分野においてもある程度は妥当するのですが、これらの分野は努力(時間)によってカバーできる部分も多く、スポーツ分野や芸術分野ほど才能による顕著な差は現れないように思います。

さて、この生存者バイアスを司法書士試験について見ると、3,000~4,000時間の勉強をすれば司法書士試験に合格できると言うのがネット上で情報発信している短期合格者の多数意見のようです。

しかし、これは本当に正しいのでしょうか?

実際には司法書士試験に合格せずに諦める人や10年以上勉強している人も多いわけで、私の周りを見ても、3,000~4,000時間程度の勉強時間で合格している人は優秀な部類に入るかと思います。

ネット上での短期合格者の意見は生存者バイアスに基づいた自身の見解であり、地頭の良さや脳の性質など他者と比較した自身の能力について十分考慮していないように思われます。

また、SNSやブログなどを通じて勉強方法などを紹介しているのは総じて短期合格者が多く、一方、諦めて撤退したような人は情報発信をすることが少ないわけです。

私は以前、司法書士試験の合否は努力(勉強時間)の差で決まるものであり、健常な一般人であれば能力の差はほとんどないものだと思っていたのですが、境界知能について書かれた『ケーキの切れない非行少年たち』やその他の脳に関する本などを読んでいると、生まれついての知能の差というものを考えさせられるようになりました。

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現在では、司法書士試験に短期合格するには努力だけでなくそれなりの地頭の良さ(これは抽象的かつ相対的なもので表現するのが難しいのですが)が必要で、それに加えてその人の脳の性質も重要な要素だと感じています。

脳の性質とは要は向いているか向いていないかということであり、司法書士試験においては「これ覚えて一体何の役に立つの?」と思えるような内容でも疑念を抱かず地道にコツコツと覚えていく能力が必要になるので、悪く言えば細かいことにこだわる粘着質な人が向いているように思います。

いずれにせよ、3,000~4,000時間の勉強と言うのは自分が司法書士試験に向いているかどうか判断するための目安にはなるかと思います。

ネット上で短期合格者の記事などを読んでいると誰でも3,000~4,000時間勉強すれば受かるような錯覚にさせられますが、これから司法書士試験を受けようとされている方は、生存者バイアスが働いていることも考慮に入れ、受からない人も山ほどいるという事実を忘れないでいただきたいと思います。

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