令和6年4月1日より相続登記が義務化されたことは、だんだんと認知されてきたように思います。実は、もう一つ義務化される登記があることをご存じでしょうか?令和8年4月1日より、所有権の登記名義人の住所や氏名に変更が生じた場合には、変更後の住所・氏名に変更する登記をするよう義務付けられることが決まっています。
この義務化によって、変更後2年以内に変更登記をしなければ、5万円以下の過料の対象になるといった罰則も設けられています。この2年以内には、令和8年4月1日以前に所有権の登記名義人になっており、既に住所や氏名が変更されている人も対象になっていますので注意が必要です。
住所や氏名が変更されて市区町村役場に住民登録や戸籍登録の変更届出を行っても、法務局の登記記録に記録された所有者の住所や氏名が自動的に変更されるわけではありません。別途、変更登記の申請を行う必要があります。
不動産の所有権を取得してから住所や氏名を変更することなく生涯を終える方もおられますが、マイホームの購入をイメージしていただくとこの住所・氏名の変更登記の機会は頻繁に起こっていることがわかります。マイホームを購入した段階では、通常は購入時に住んでいる住所・氏名で登記をします。その後、購入したマイホームに引っ越しを行って市区町村役場に変更を届け出ますから、少なくともマイホームを購入した人のほとんどが変更登記を必要とします。
現在、住民基本台帳ネットワークシステム(通称「住基ネット」)によって、各行政機関が住民に関する基本情報を全国的に共有できるようになっています。つまり、この住基ネットを使えば、住所・氏名変更登記を必ずしも本人からの変更登記申請によらなくても法務局でも変更された事項の把握はできることになります。
ただし、この住基ネットに法務局の登記官がアクセスするには検索に必要な事項を知っておかなくてはなりません。そこで、令和8年4月1日の住所・氏名変更登記の義務化に先んじて、令和7年4月21日より、この検索に必要な情報を所有権の登記名義人になる人があらかじめ申し出るという制度がスタートしました。
これは、新たに所有権登記名義人になる申請をする人が同時に申し出るシステムになっています。また、過去に所有権の登記名義人になった人についても申出のみをすることができます。申出の内容は、「氏名」「氏名のふりがな(日本国籍を有しない人はローマ字表記)」「住所」「生年月日」「メールアドレス」です。「住所」「氏名」については、登記されますからこれまで通りですが、その他の3つが新たな制度の申出事項となります。
この申出は、個人でかつ日本に住所を有する人に限られます。つまり、日本に住民登録がない人や法人については、住基ネットでの検索はできませんから対象外となります。検索用情報の申出にメールアドレスが含まれている理由ですが、これは法務局が住基ネットを検索して変更事項を確認したのち、本人の承諾を得て変更登記できるように事前連絡用としてあらかじめ申出をしておきます。なお、メールアドレスを所持していない場合には「メールアドレスなし」として申し出ることもできます。この場合には、住所あての書面にて事前の連絡が送付されることが想定されています。
新たに所有権登記名義人になる場合に申出をするのが基本となりますが、新たに所有権登記名義人になる場合とはどのような登記申請を指すのでしょうか。主なものを挙げてみますと、相続や不動産の購入(売買)、贈与などによって新しくその不動産の権利を取得する「所有権移転登記」が代表的です。そして、建物を新しく建てて最初にする所有権の登記を「所有権保存登記」といいますが、この場合にも検索用情報の申出を行います。
令和7年4月21日以降の検索用情報の申出の新制度のスタート後に新たに所有権登記名義人となる登記をする場合には、登記申請書に検索用情報を記載する方法で申し出ることになっています。令和7年4月21日より前に既に所有権の登記名義人になっている場合でも、この検索用情報の申出のみを単独で行うことができます。
検索用情報の申出を単独で行う場合には、法務省のホームページから申出書をダウンロードして必要事項を記入の上、身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)のコピーを添付します。管轄の異なる法務局に複数の不動産を所有している場合には、いずれかの法務局あてにまとめて申出をすることもできます。
検索用情報の申出の趣旨についてはおわかりいただけたでしょうか。通常、引っ越しをした際や結婚などで苗字が変わる場合には市区町村役場の手続きは必ず行いますが、法務局での住所・氏名の変更登記手続きまではなかなか意識が向かないものです。とはいえ、過料という行政上のペナルティーの対象となりますので、これから不動産の所有権を取得する方だけではなく、既に所有権登記名義人となっている方も、検索用情報の申出を積極的に行っておくことで、将来の義務化に安心して備えることができます。
この検索用情報の申出について、もう少し詳しく聞きたいなどのご要望がございましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。