不動産登記とは、法務局という官公署(役所)が管理する土地・建物の情報のことをいいます。その情報に変更があれば、原則として当事者が申請をしてデータを変更することになっています。ですから、たとえば不動産の所有者が変更されると、当事者が法務局にその不動産名義の変更を申請することになります。
では、この名義変更は必ずしなくてはいけないのでしょうか?今回はそれについて少し説明していきます。
土地・建物には、その番号・広さ・種類(用途)などの形状に関する情報が記載された「表題部」と誰が所有者でどんな権利が付いているかなどの情報が記載された「権利部」に分かれています。
「表題部」の申請代理を専門とする国家資格者を「土地家屋調査士」といいます。一方「権利部」の申請代理を専門とする国家資格者が、私たち「司法書士」です。
登記申請は、これまで表題部のみが義務とされ、怠った場合の罰則規定がありました。ところが、権利部については義務化されていません。ということは、権利の登記については、何らかの変更が生じた場合に申請して変更しなくても、これまでは罰則がなかったわけなのです。
例えば、土地を購入した場合に、買主さんの名義に変更する登記申請をしなくても、罰則の対象にはならないわけですね。
このあたりの法律の考え方は、「登記申請をしなくても罰則はないですけど、それによる不利益は自分で受けてくださいね」というスタンスです。イメージしていただくために極端な例を一つ挙げてみましょう。
Bさんが土地を買ったのに、登記申請をしなかったために名義が元の所有者(売主)であるAさんのままだとします。その後、登記記録を見てAさんが現在もその不動産の所有者だと信じたCさんが高値で買いたいと言ってきて、AさんはCさんに売却し、Cさんは自分名義に登記をしてしまったとします。この場合、Aさんのした行為は犯罪になるのですが、最初に買ったBさんは「自分が先に買ったんだ!」とCさんに主張できない、というのが法律上の理屈になります。もちろん、BさんはAさんを刑事告訴することもできますし、損害賠償を請求することもできますが、この土地は手放すことになるのです。これが先ほど説明した「登記申請をしなくても罰則はないですけど、それによる不利益は自分で受けてくださいね」の意味です。
ここで、今回お伝えしたい相続登記についてのお話に移ります。不動産の名義人が亡くなるとその相続人の名義に不動産登記を変更する必要があります。ところが、これまでは上でお伝えしたとおり、権利の登記に罰則が設けられていなかったことから、この相続登記がずっと放置されてきた不動産が日本全国に多数存在します。人は必ず亡くなりますから、不動産の名義を放置すれば、その下の世代もやがて亡くなり、どんどん相続人が増えていきます。それが何代も続くと、もはや誰が不動産の名義人の相続人になっているのかわからず、名義を変更しようにも収集がつかなくなるのです。このような所有者不明の不動産がもたらす経済的損失は全国で莫大な試算になっていたそうです。
この事実を受けて、令和6年(2024年)4月1日より、相続登記については登記申請を義務とした運用がスタートしています。つまり、現在では、相続登記を放置すると過料(行政上のペナルティ)の対象になっています。
相続登記の期限は以下のとおりです:
①相続(遺言含む)によって不動産を取得した場合→その所有権の取得を知った日から3年以内
②遺産分割によって不動産を取得した場合→遺産分割が成立した日から3年以内
①②の場合ともに、正当な理由なく期限内に登記申請しなかった場合は10万円以下の過料の対象となります。
また、法改正(令和6年4月1日)以前に登記名義人が亡くなられている場合にも、法改正から3年(令和9年3月31日まで)の猶予がありますが、義務化の対象となっています。
期限内に相続登記ができない場合にも、ひとまずペナルティを回避するための「相続人申告登記」制度も用意されていますので、期限内に相続登記ができるか不安がある場合やよりスムーズに手続きしたいという場合など、相続登記に関するお問い合わせは、随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。