司法書士と国際業務
私は現在、司法書士業務の一環として、日本在住の外国人サポート、渉外登記、海外の保険金請求、主に翻訳業務を通じた日本人および日本企業の海外進出サポートなどに取り組んでいます。
上記のうち、日本在住の外国人サポートに関しては、例えば永住権や配偶者ビザを有している外国人の場合、手続き面に関しては日本人とほとんど異なりません。
しかし、永住権を有していても日本語が流暢ではない外国人も多く、とりわけ法律が絡んでくる手続きにおいては、(仮に日本語がある程度できたとしても)英語でやり取りを希望される方も多いです。
そして、このような日本に在住する外国人をサポートする際には、対面でやり取りする機会も多く、必然的に英会話力も求められるでしょう。
一方、その他の渉外登記案件、例えば被相続人が外国人であるまたは相続人が海外居住の外国人であるなどの渉外相続の案件においては、通常の司法書士業務に求められる知識に加えて、国際私法や外為法などの日本の関係法令、ならびに現地の法令や制度などの知識が必要になってくるでしょう。
しかし、このような案件では依頼人や関係者が海外に居住していることも多く、その場合は必ずしも高い英会話力が必要になるというわけではなく、英語でのやり取りもメールで済むことが多いです。
英文メールのやり取りに関しては、現在はオンライン辞書に加えてChatGPTやDeepL、Google翻訳などの優れた翻訳ツールがありますので、以前に比べるとその難易度は格段に下がったように思います。
今後は国内市場が縮小する一方でインバウンド需要は増加の一途を辿ることが予想されますから、グローバル社会における司法書士として、渉外登記などの国際業務に携わることは経営戦略を考える上でも重要だと感じます。
私も当初は英語を使用した業務はおまけ程度にしか考えていなかったのですが、渉外登記に携わる司法書士の数が多くないこともあってか、気が付けば登記に関しては外国人の顧客の方が増えてしまい、毎日のように業務で英語を使用するようになってしまいました。
著者の経歴と英語の勉強法
私はもともと法律とは畑違いの仕事をしており、大学も英文科で、大学卒業後はオーストラリアの通信企業で営業・マーケティング職として働きつつ、並行して英語翻訳者として活動を続けていました。
リーマンショックの最中に日本に帰国し、東京でフリーランスの翻訳者として国際協力機関などで働いた後、法人化して小さな翻訳会社を経営していました。
司法書士とは異なり、翻訳業というのは受注から納品まで全てがオンラインで片付く仕事でもあり、私も東日本大震災を機に大阪に戻ってきた後は、業務を全てオンライン化(クラウド化)して、仕事をしながらも頻繁に世界各国を旅する生活を送っていました。
コロナ禍をきっかけにそのような生活も終わりを迎え司法書士になったわけですが、もともとは英語しか取り柄のないような人間でした。
そのようなわけで、本記事でも効率的な英語の勉強法について書いてみようかと思っていたのですが、私自身が「英語の勉強法」などと題する書籍が大嫌いなこともあって思い直しました。
というのも、英語の勉強法は十人十色で、各々の能力や適性、環境や背景によって全く異なるからです。
ただ1つ言えることは、司法書士試験の合格レベルに達するためにまとまった勉強時間(主観では少なくとも2,000~3,000時間程度)が必要になるのと同様に、それなりの英語レベルに達するためにもまとまった勉強時間が必要になるということです。
我々日本人が日常生活において自然に日本語を話せるように、英語ネイティブも苦労をせずとも自然に英語を話せるようになったと思われがちですが、日本語ネイティブも英語ネイティブも、(意識しているか否かにかかわらず)生まれた頃から1日中家庭や学校などの日常生活において言語を学んでいます。
例えば、家庭においては親がイチから単語や言葉の意味を教えてくれたり、学校においては教師が読み書きや漢字を教えてくれたり、それ以外の日常生活においても友人などとの対話を繰り返すことによって言語能力を磨き続けています。
そのことを考えると、某通信教材のように「聞き流すだけで英語ペラペラ」などというのはあり得ず、英語の習得には地道で継続的な努力が必要になってくることが分かります。
TOEIC900点程度を取るだけであれば1,000時間もあれば十分ですが、英語のネイティブレベルを目指そうと思ったら少なくとも10,000時間は必要だというのが持論です。
参考までに、私がこれまでどのように英語を勉強してきたかを以下に簡単にご紹介しておきたいと思います。
私は聴覚よりも圧倒的に視覚優位の人間なこともあって、当初はひたすら英単語と英文法の本を読み漁っていました(これは、大学受験用、TOEFLや英検など資格用のテキストでも何でも良いです)。
これは法律学習において用語や定義、条文の読み方などを学ぶのに似ています。
ある程度英単語と英文法の知識が蓄積されてくると、洋書や英字新聞も読めるようになってきますので、興味のある分野を中心に様々な書籍や新聞を読んでいきました。
海外の書籍は英語だけではなく現地の文化に慣れ親しんでいないと理解しづらいこともありますが、村上春樹、太宰治や夏目漱石などの英語版は日本人にとっても読みやすく、英訳本も数多く出版されているのでおすすめです。
また、字幕や歌詞を頼りに洋画や洋楽も楽しめるようになってきます。
今ではNetflixやAmazonプライムなどを利用すれば気軽に洋画や海外ドラマを楽しめる便利な時代になりましたが、私が学生時代の頃は、TSUTAYAで洋画のDVDを借りて英語の字幕を付けて繰り返し見ていました。
英語の字幕を見ながら英語の音声を聞いているだけでも十分な勉強になりますが、俳優のセリフをそっくりそのまま真似て発言する「シャドーイング」と呼ばれる方法もおすすめです。
スピーキングに関しては、恐らくはその気質も災いしてか日本人が一番苦手とする分野だと思いますが、上記の方法で蓄積された英語表現を武器に、ひたすらアウトプットをして慣れていくしかありません。
私はオーストラリアに渡る前、本や映画などで英語表現をインプットするのと並行して、京都や大阪にある英会話喫茶やブリティッシュ(アイリッシュ)パブ、ランゲージエクスチェンジ、そして当時流行りだしたフィリピン人とのスカイプを利用したオンライン英会話スクールなどを利用して少しずつ英会話力を鍛えていきました。
現在はYouTube動画、ChatGPTなどのAIツールやアプリ、そしてSNSを通じた国際交流イベントなど手段も多様化していますが、人間の脳みその構造が変わらない以上、英語学習に対する根本的な考え方も変わらないように思います。
私は英語好きが高じて気が付けば翻訳者として20年ほど活動していますが、英語の翻訳作業においてはスピーキング力やリスニング力は求められず、求められるのは、英語のリーディング力やライティング力に加え、日本語能力、専門知識、ITスキルや調査能力などです。
日常的に英語を話していないと必然的に英会話力は落ちてくるので、司法書士業務で外国人と接する機会が増えたのを機に、現在では英会話スクールとオンライン英会話サービスを利用し、そしてときどき洋画や洋書などに触れて英語力の維持と向上に努めています。
「英語ができるようになって何がしたいのか」によって英語を学ぶ方法も当然変わってきますが、いずれにせよ英語を学ぶにあたっては継続することが一番大事なので、英単語や英文法を少しずつでも覚えながらも、自分の好きなことや興味があることから始めていけば良いように思います。
英語力を構成する4つのスキル(リーディング、ライティング、リスニング、スピーキング)はそれぞれ別物と言われながらも、同じ英語である以上相互に関連性を有しているので、どれか1つでも突き抜けていれば、他のスキルは自然とそれに引っ張られて伸びてくるものです。
前述のとおり、渉外登記に携わるのに必ずしも高い英会話力は必要ではないので、興味がある方は是非積極的に渉外登記などの国際業務に携わると共に、業務に必要なレベルの英語力の習得に努めていただければと思います。