司法書士業務

司法書士の英語表記に関する一考察

司法書士として外国人や外国機関と英語でやり取りする際に、頭を悩ませる問題があります。

それは、「司法書士」の英語表記をどうするかという問題なのですが、これは司法書士制度が日本(及び一部の外国)独自であることから発生します。

国によって制度が違うので正確に当てはまる訳語というものはなく、司法書士の業務内容を理解してもらおうと思ったら詳しく説明する必要があります。

ただ、現在日本において「司法書士」の英語表記として使用されているいくつかの言葉がありますので以下にご紹介したいと思います(読みやすいように、固有名詞であるか否かにかかわらず、英単語は全て最初の1文字を大文字にしています)。

Judicial Scrivener

これは「司法書士」の直訳に近いですが、どちらかと言うと「司法代書人」のニュアンスになるでしょうか。

「Judicial」という英単語は「司法の」や「裁判の」という意味を持ち、英語圏の国においては一般的に使用されている英単語ですが、「Scrivener」という英単語はやや古い表現で「代書人」、「書記」や「公証人」を意味し、現在ではあまり一般的な英単語ではありません。

しかし、「司法書士」の英語表記として「Judicial Scrivener」が使用されるケースは多いようです。

法務省の英語サイトや、法務省が運営している「日本法令外国語訳データベースシステム」内の裁判所法ADR法では「司法書士」の訳語として「Judicial Scrivener」が使用されています(「司法書士法」の訳語は「Judicial Scrivener(s) Act」が使用されています)。

「日本法令外国語訳データベースシステム」内の英訳は、ウェブサイトの注意書きにも記載されているとおり、日本語の法令のように法的効力を有するものではなく、あくまでも理解を助けるためのものでしかありません。

しかし、司法書士を管轄する法務省が「司法書士」の訳語として「Judicial Scrivener」を使用しているという事実は重要です。

それ以外でも、翻訳者がよく使用するオンライン英語辞書のアルクや、ChatGPTなどの翻訳ツールでも「司法書士」と入力すると「Judicial Scrivener」が出てきます。

私も現状「Judicial Scrivener」を使用しており、外国向けに発行する翻訳証明書などの英文書類にもこのように記載していますが、近場の公証役場で翻訳文の認証をしてもらう際にも公証人の認証文言には「Judicial Scrivener」と記載されています。

結論として、「司法書士」の訳語として「Judicial Scrivener」は広く用いられているようで、準公訳と言えるものかもしれません。

Shiho-Shoshi Lawyer

これは日本司法書士会連合会がウェブサイト上やポスターで使用している「司法書士」の英語表記です(「Shiho-Shoshi Lawyer」だけではなく、ウェブサイトの英文ページには後述の「Solicitor」も併記されています)。

日司連のサイトによると、「日本司法書士会連合会」の英語表記が「Japan Federation of Shiho-Shoshi Lawyer’s Associations」となっていますが、これに習えば「大阪司法書士会」の英語表記は「Osaka Shiho-Shoshi Lawyer’s Association」になるでしょう。

各地の司法書士会でもこれに習って英語表記を付けているケースも多いのですが、「○○ Shiho-Shoshi Lawyer’s Associations」などと間違って付けているところもあり(単一の司法書士会なので「s」は不要)、その英語表記は統一されていないようです。

「Sushi」や「Tsunami」のように今や英語圏でも一般的に使用されるようになった言葉とは異なり、「Shiho-Shoshi」は日本の制度を理解していない外国人には通用しないでしょうし、外国向けに使用するには躊躇してしまう訳語なのですが、司法書士はローカルな仕事ですし、国内で使用する分には問題ないと思われます。

ちなみに、私はオンライン英会話で日本人講師と話す際に弁護士と区別するために「Shiho-Shoshi Lawyer」などと自己紹介することがありますが、「Shiho-Shoshiって何?」と言われて悲しくなることがあります(日本人でこのような状況なので、外国人ならなおさら分からないでしょう)。

ただ、最近では「あ!Netflixドラマの『地面師たち』に出てくる人」などと言われることがあります。

『地面師たち』のお陰で司法書士の知名度が上がっているようで少し嬉しくなります。

Solicitor

これは外国の人に司法書士を説明するのに一番分かってもらいやすい訳語ではないでしょうか。

イギリス英語では、「事務弁護士」を「Solicitor」、「法廷弁護士」を「Barrister」と言うのですが、司法書士の業務内容に登記申請書類や裁判書類の作成が含まれていることを考えると、イギリス英語の「Solicitor」に近いのかもしれません。

一方、アメリカ英語では「Solicitor」には「法務官」の意味もあるようですが、「勧誘員」などを意味することも多いので注意が必要です(動詞の「Solicit」には「懇願(勧誘)する」の意味があります)。

ところで、イギリス英語で「法廷弁護士」を意味する「Barrister」は日本人には発音しづらい単語ですが、イタリア語由来のコーヒーを作る「Barista」とは異なります(日本人が発音すると、カフェの店員だと思われるかもしれません)。

アメリカ英語では「弁護士」は一般的には「Attorney (Attorney at Law)」や「Lawyer」(どちらかというと「法律家」の意味に近い)と呼ばれるようです。

ただ、イギリス英語の「Barrister」という言葉は法廷内の傍聴席との仕切りを表す「Bar」という言葉から由来しているようで、アメリカでも日本でも「司法試験」は「Bar Examination (Bar Exam)」、弁護士会などの団体は「Bar Association」と呼ばれるのが一般的でしょう。

日本においても「弁護士」は「Attorney」が使用されており、「大阪弁護士会」の英語表記は「Osaka Bar Association」となっています。

シンプルで格好良く、どこの国でも通用しそうで羨ましく思います。

その他

上記3つの訳語が使用されるケースが多いようですが、私は外国の行政機関や保険会社などに問い合わせる際、よく「Japanese Lawyer」を使用しています。

この言葉は弁護士と混同される恐れもありますが、そもそも相手からすれば日本国内の司法書士業務には関係なく、「Judicial Scrivener」や「Shiho-Shoshi Lawyer」などと言っても相手からすれば「?」となるでしょうし、イチイチ業務内容を説明するのも面倒くさいので、便宜上相手が一発で理解できる言葉を使用することにしています。

その他にも法律の実務家や専門家を表す意味で「Legal Practitioner」や「Legal Specialist」なども使用できるかもしれません。

以上、「司法書士」の英語表記についていくつかご紹介しましたが、皆様はどのような英語表記が良いと思うでしょうか。

法律を学ぶということは、言葉を学ぶということでもあります。

「司法書士」という言葉は、言わずもがな法律に明記されている言葉であり、「司法書士」という言葉を法律の規定に基づかずに勝手に変更することは許されません。

そうであれば、「司法書士」という言葉の英語表記にも、日本語表記と同様に敏感であるべきではないでしょうか。

外国人とのやり取りが増えている昨今、私としては、「司法書士」の英語表記が統一されて一般的にも広く認知されるようになることを願っています。

是非一度、司法書士の英語表記について考えてみてはいかがでしょうか。

※なお、私はイギリスやアメリカなどの司法制度に精通しているわけではなく、上記に英単語を挙げた「Barrister」などの人たちが現地で具体的にどのような職権が付与されているかまでは詳細を把握しておりませんのでご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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